Mag-log in「本当に嘆かわしいのじゃ。 お前は何も見えておらんのぅ……」そんな姿になってまでワシを倒したいのかのぅ。 父上の件は、ゼドがもう少し成長してから話すつもりでおったのじゃが…… まぁ、でもあの状況を見ておれば、誤解するのも無理はないかのぅ。「なぁ、ゾルダ。 ゼドが言っていたことは本当なのか? 先代の魔王を殺したって……」おぬしか…… あぁ、ここにも説明せねばならん奴がおるのか…… 面倒じゃのぅ。「その話は今のあのバカ弟のことが終わってからじゃ。 今、言えることは、すべてはあいつの勘違いということじゃ!」あやつにそう言うと、ワシは襲い掛かってくるゼドの前に立った。 なりふり構わぬゼドはワシ目掛けて大きな拳を落としてくる。ガッシーン――鉱物がぶつかったような音が部屋に響き渡っておる。 腕を交差して受け止めたのじゃが、なかなかズシリとくるのぅ。「お前も少しはやるようになったのぅ」あんな変な物の力を借りねばワシに立ち向かえぬ心の弱さ…… そういうところもじゃぞ。 まだまだ魔王としての自覚が足りないところばかりじゃ。 それに……「だが、まだまだワシには及ばぬのじゃ」交差した腕で押し返すと、いとも簡単にはじけ飛んでいったのじゃ。 ゼドは柱に激突するとヒビが大きく入り、瓦礫が崩れ落ちたのじゃ。 力も魔王としてもまだまだ足りないのぅ……「オマエガニクイ…… オマエサエ、イナケレバ……」そこまでワシを憎んでおるのか。 それとも薬の影響かのぅ…… お前のその考えも意識も全部誘導されておるということがわかっておらぬようじゃのぅ。ゼドは起き上がると、全身に魔力を流し身体を強化し始めたのじゃ。 力には力か…… その身体になったのなら、悪い考えではないのじゃが……「脳筋か、お前は。 お前はお前の戦い方があるじゃろうに」思わず首を横に振ってしまったのじゃ。 これはもう嘆かわしくて、頭を抱えてしまうのぅ。強化したゼドは思いのほか俊敏に動き、またワシに襲い掛かってきおった。 腕から繰り出される力一杯のパンチや闇雲に振るうキックの嵐。「だ……大丈夫か、ゾルダー!」あやつは剣をしっかり構えて、ゼドの隙を窺おうとしておる。 その心意気は嬉しい限りじゃが、今のあやつの実力じゃ、死ぬだけじゃ。「おぬし、ワシは大
シータの長々と話したていたが、ゾルダの一喝で転移の魔法の起動に入った。「ゾルダもそんなに無碍に扱わなくても……」まぁ、シータも調子に乗っていたのも確かだったけど、そんなに怒らなくてもいいのではと思った。「あいつは話を始めたら長いんじゃ。 さっきの分はワシからの命令だったしのぅ。 その話までは我慢してやったんじゃ。 ワシも度量が大きいじゃろ?」「それにしても止め方ってものが……」しばらくすると低いブーンとした音が聞こえてきた。 そろそろ転移が起動しそうだ。「そろそろ行きますの」シータがみんなに声をかけると、上から魔法陣が降りてきた。 俺たちに降り注いだ魔法陣が下に降りたころには、転移先に到着していた。 着いてすぐにゾルダが浮遊魔法で移動し始めた。 他のみんなもつき従っていく。 俺も慌てて走り始めた。「? ここはどこ? どこに転移した?」周りを見渡しても俺の知っているところではなさそうだ。「あらあら。 ここに来たのね」ヒルダがぽつりと口にした。 どうやらヒルダは知っているところのようだ。「なぁ、ゾルダ。 ここはいったい……」「まぁ、行けばわかるのじゃ。 まずは急ぐのじゃ」なんかもったいぶる言い方だな。 弟のことが心配のは分かるが、事情が一番わかってない俺に説明をしてくれてもいいじゃないか。 でも、すぐには説明する気はなさそうだ。 とりあえず分からないことが多いけど、ついていくしかない。長い廊下を進んでいき、大きな扉の前に着いた。 それにしても大きな城のようなところだ。 弟はいったい何をやっている奴なんだ? ゾルダが元魔王だし、魔王軍の幹部か何かかな? でも、ゾルダが追い出されているんだし、その家族だし、不遇な状況な気がするけど……「ここの奥にゾルダの弟がいるのか?」「たぶん、いるんじゃないのかのぅ。 ここが大好きな奴じゃしのぅ」周りにいたセバスチャンとシータが扉の前に立ち、取っ手を持ち引き始める。ギギギギッ――あまり手入れされていないのか軋んだ音が蝶番から聞こえてくる。 二人が扉を開け終わると、その向こうには大きな空間が広がる。 そして奥には豪華な玉座とそこにぐたっと座る男が居た。「やっぱりここに居ったか」「……っつ……お前……何しに来た」苦虫を噛み潰したよ
ゾルダ様も人使いが荒いというかなんと言うかの…… おいどんも頑張ってあのラファエルとクラウディアを追い詰めて捕まえたのにの。 すぐに転移魔法使えとおっしゃる。 少しぐらいはおいどんを気づかってくれてもいいのにな。 心の中でそんなことを考えていたら、坊ちゃんがおいどんの方へと近づいてきた。「シータ、ごめん。 一緒に戦うはずが、途中からあの二人任せっきりになっちゃって」「いや、お気遣いなく。 もともと一人で相手するはずだったからの」「ゾルダも弟のことが気になるんでしょ? せっかくラファエルとクラウディアを捕まえたシータに、さらに無理言って」坊ちゃんはおいどんのことを気づかってくれておるのかの。 それともおいどんに顔に出ておったかの。 そうであれば気をつけないといけないの。「ゾルダ様はいつも通りだとは思いますがの。 それでも坊ちゃんだけにでも気づかってもらえたのは嬉しいですの。 ところで……おいどんの戦いぶりはどうだったですかの?」「ごめん、こっちもいろいろとあったので、しっかりと見ていなかった」「ならば、おいどんがどうやってラファエルとクラウディアを捕らえたかをお聞かせしましょう」おいどんは見ていなかった坊ちゃんのために二人との戦いを振り返り始めた――『ゼド様は私たちに何をお渡しになったのですか……』『あれー? またおばさんが増えたじゃん ウケるー』ラファエルとクラウディアはどうやらあの仕掛けを知らなかったようですの。 おいどんたちも封印されていたのであれば、ヒルダ様も当然こうなっているのはわかるがの……『おい、お前らはこのことは知らなかったのかの?』『知る訳ねーじゃん。 ゼド様が勇者に渡せっていうから持ってきただけだって』『何かしらゼド様が考えていらっしゃることは分かっておりましたが……』どうやら策があるというぐらいの事しか知らなかったようですの。 しかし、あのヒルダ様の様子は少し違う感じがするの。 ゼド坊ちゃんが何か考えていると言うのであれば、何もないってことはなさそうですの。ヒルダ様と坊ちゃんの心配をしていたおいどんに対してラファエルは『余裕ですね。 今は私とクラウディアの相手をしているはずですよ』と言い、連続で火炎魔法を唱えてきた。『余裕ではないがの。 気になって見
は……恥ずかしいったらありゃしない。 なんで罵倒なんかしないといけないんだ。 俺はSでもMでもなくノーマルだって……覚悟を決めて言ってはみたものの、顔から火が出るような思いだった。 ヒルダが倒れたからよかったけど、これで何の効果も無かったら……ちょっとぞっとする。 ゾルダにもいろいろと突っ込まれたが、恥ずかしくてまともに顔も見れていない。 知らず知らずに、顔を手で覆っていた。 その時「アグリ、危ないのじゃ!」ゾルダの大きな声が聞こえてきた。「何が危ないって……」覆っていた手を外すと、ヒルダの上に固まっていた紫の霧が鋭い刃となり俺の方へ向かっていた。「うぁーーーー」突然の出来事に叫んで腕で顔を隠して身構えることしか出来なかった。 鋭い紫紺の殺気が俺の肌を刺すような感覚を感じる。 俺はこのままやられてしまうのか……バチーン――大きな音と共に濃紫の塵が飛び散った。 もうこれで終わりか…… 呆気ないなかったな、俺の人生も。 結局魔王だって倒せなかったし。 残されたゾルダたちはまた封印されてしまうのだろうか……などとあれこれ考えていたが、痛みが全然ない。 ふと顔を上げると目の前に居たのは、さっきまでそこに倒れていたヒルダだった。「あぁあん、そんなに慌てなくてもいいのに、このあわてんぼうさん。 うーん……でもね、あなたの攻めは……あまり美味しくないわ。 そうね……この子の方が…… 考えただけでゾクゾクするわ」紫紺の刃がヒルダを突き刺してはいるのもの、悦に入った表情をしているヒルダ。 俺の方を向くとますます悦に入った顔になっていく。「あ……ありがとうございます。 でも……それ、大丈夫ですか?」その尋常じゃない喜びに若干引きつつも、俺を庇ってくれたヒルダを気づかった。「あら、これぐらい平気よ。 全然足りないぐらいだわ」そう言いながら、濃紫の刃を少しづつ抜いていく。 俺から見ると痛そうに見えるその動作も、ヒルダは喜びながら行っていた。「姉貴、正気に戻ったのかのぅ? あやつを助けてくれて、助かったのじゃ」遅れてゾルダが俺の目の前に来て、ヒルダのことを心配していた。「あら、ゾルダちゃんが人の心配をしているなんて珍しいこともあるのね。 しかも名前まで呼んで」ヒルダは無数の紫紺の針たちを丁寧に
「そろそろ正気を取り戻すのじゃ、姉貴」まともに戦えばワシは勝てるじゃろうが、それでは姉貴が無事では済まぬはずじゃ。いつもと違う感じじゃから、姉貴の本意ではないのじゃろう。何かしら細工がされているはずじゃとは思うのだが……「あら、わっちはいつでも正気よ。 狂っているのはお前よ、この脳筋バカ娘!」ただ姉貴の姿を見ても周りを見ても何も感じられぬしのぅ。それともあのゼドが送り込んできた二人……なんと言ったかのぅ……まぁ、名前なぞいいか。あいつらが何かしておるのか……二人がいる方を見やると、まだシータが相手をしておる。それにあれだけ追い詰められておると、こちらにかまけている余裕はないじゃろ。だから、あいつらが何か裏でしているということはないのぅ。「あぁーっ、もう考えても分からんのじゃ。 とにかく、いつもと違うのじゃから、姉貴は正気ではないのじゃ!」そう言いながら、魔法で足止めをしたり、正気に戻るように攻撃をしておるのじゃが……やっぱりこの程度じゃ、姉貴には効かんのぅ。何せあの性格が故に身につけた力じゃから、ある程度のダメージをものともせんからのぅ。とりあえず正気に戻るまではこのままかのぅ。そう考えて、姉貴の様子を伺いながら、とりあえず回避をしておったところに、あやつが割り込んできた。ワシと姉貴の間に入り込んだあやつは顔を真っ赤にしながら立ちふさがっておった。その様子を見てか、姉貴も動きを止めた。「何をしておるのじゃ、おぬしは。 巻き添えを食いたいのか!」あやつを押しのけようと手をだそうとしたところだったのじゃが「と……とりあえず、俺に任せてくれ」あやつの眼も泳ぎ、動揺しておるのがすぐわかったのじゃ。それでも照れくさそうにしている意味がよくわらんがのぅ。「あら、やだわ。 わっちのところへ来てくれるのかしら」姉貴はよく知らないあやつのことを何故そこまで好意を持っておるのかはわからんのじゃが、妖艶な笑顔であやつを見ておる。ますます顔が赤くなるあやつ。「お……おぬし…… もしかして、姉貴に惚れたのか?」「そんなことあるかー! ちょっと思いついたことがあるんだけど、それが恥ずかしいだけだって」あやつはそう言うと、大きく息を吸いこんで吐き出しておる。そして、両手で頬を叩くと、また一歩前にでて姉貴に近づいていきお
ん? 今、一体何が起きた?確かあの時、俺が振った剣がラファエルを掠めた。 今まで空振りだったのがようやく当たって喜んだのもつかの間だった。 その時足についていた鎧が落ちてきたのを拾ったはずだった。 そう拾っただけだったのだが……「なんで女の人に絡まれているんだ?」俺にベッタリと体をつけてガシッと腕を組んで離さない。 痛いぐらいに掴んでいるので、離れることも出来ない。 顔は笑っているものの、目だけが冷たく光って見えていた。「女の人って、そんな他人行儀な言い方はないわね。 わっちよ、わっち」「そんなこと言われても、こっちになんか知り合いはいないし……」俺以外にこっちへ来たって聞いたことも見たこともないから、赤の他人のはずなんだが…… 思わずゾルダの方に顔を向けると、あのゾルダが驚いた表情でポカンとしている。「お前は…… いや、あなたは……」驚いた中でも、何かを話そうとしているようだが、言葉になっていないようだ。「もしかして……ゾルダのお知り合いかなにかでしょうか?」恐る恐る抱きついている女の人に確認をする。 するとその女性は「知り合いも知り合いだよなぁ、ゾルダ!」ドスの効いた声でゾルダを睨みつけている。「あ……姉貴?」ゾルダの口からまたも身内を思わせる一言が出てきた。「えっ? この人、ゾルダのお姉さんなの?」弟が危ないとの話が出てきたと後は、お姉さんの登場か。 いったい何人姉弟なのか?「いや…… 正確には、ワシの父の妹じゃ……」ゾルダが随分遠回しな言い方をしている。 少し気にはなったが、俺は気にせずに「あぁ、おばさんね」と言ったとたん、掴んでいた手の力がさらに入ってきた。「わっちのこと、おばさんって言ったわね。 どうしてくれようかしら」俺の事を睨みつけて顔を寄せ







